エナメル質と象牙質

エナメル質の内側には少し硬度の小さい象牙質がある。象牙と同じような成分の物質で淡黄色をしている。歯の色が真白でなくていくぶん黄味を帯びるのは、白色半透明のエナメル質をとお して象牙質の色が見えるからだ。 象牙質のさらに内側は、ぶよぶよしたやわらかい組織があり、歯髄という。ここは多数の血管や神経 が発達し、歯髄の先端に聞いた穴をとおして歯槽骨とつながっている。「歯の神経を抜く」というとき の「神経」は歯髄のことである。いささか驚くべき話だが、歯髄を流れる血液は、組織重量あたりの単 位時間流量が脳の血液と変わらない。人間にとって、歯がきわめて重要な器官であることがわかる。い ともかんたんにむし歯や歯槽膿漏にしてしまって抜歯するのは考えものだ。 歯髄は歯の生命といわれる。しかし、いわゆる神経をとっても、歯は抜けないでもちこたえる。なぜ だろう。歯根部にはエナメル質がなく、かわりにセメント質がある。エナメル質ほど硬くないが、エナ メル質とちがって骨と同じように細胞が生きている。だから、歯は抜けない。年齢を重ねると歯槽骨が 下がり歯肉がやせて、セメント質が外に露出する。エナメル質よりもやわらかいので、むし歯になりや すい。歯頭部のむし歯は中高年者や老人によく見られる。 セメント質の外側、つまり歯槽骨とのあいだには、先に触れた歯根膜があって、クッション役を果た し、鋭敏な神経を通じて食べものの歯ごたえや歯ざわりを脳に伝える。また、エナメル質と歯槽骨のあ いだの付着上皮は、細胞の活発な新陳代謝を繰り返し、好中球や歯肉溝渉出液の働きで生体防御機能を 発揮して細菌の攻撃から歯を守る好中球をたくさん含む液体で、付着上皮の細胞のあいだを流れる。 骨は生きている。歯を支える歯槽骨は歯がなくなると、お役ご免ということになって歯ぐきに吸収さ れる。骨を失った歯ぐきは弱くなる。その意味からも、歯は抜かないにこしたことはない。